松本雄貴のブログ

本。映画。演劇。旅。

小説

79回目「苦役列車」(西村賢太:新潮文庫)

様々な場所で「文学の必要性」についての議論を見かける。自分自身、文学作品を読むのは好きだし、好きだからこそ、こんなブログも書いているわけだが、改めて「文学の必要性」を問われると答えに窮してしまう。「文学は人間性を豊かにするから読むべきだ」…

77回目「プレーンソング」(保坂和志:中公文庫)

自分は「やれやれ」と呟く人間が苦手である。「やれやれ」という嘆息には、様々な欺瞞が含まれているように思う。相手を小馬鹿にしている感じが嫌だ。馬鹿な事をした相手、或いは、馬鹿な状況に対して「やれやれ」などと呟く人は、「自分はこんな馬鹿なこと…

75回目「悪意の手記」(中村文則:新潮文庫)

不治の病に冒された男が人生に絶望し社会を憎悪する。奇跡的に病気は回復するが、闘病中に心の中で育まれた虚無と悪意は消えず、やがて同級生の親友を殺害する。殺害に至るまでの主人公の心の動きと、その後の数年の人生を、手記形式で描いた小説。なぜ主人…

72回目「瓶詰の地獄」(夢野久作:角川文庫)

あははははは。いひひひひひ。うふふふふふ。えへへへへへ。おほほほほほ。はっはっは。あーっはっはっはっは。ぐへへ。ぐひひ。いひひ。ほほほ。くっくっく。ききき。けけけ。 と、いうように小説内で笑い声を表現するのは難しい。カギ括弧の中に笑い声を入…

67回目「雪沼とその周辺」(堀江敏幸:新潮文庫)

物心が付いた時から今までの人生の中で、悩みが無かった時期はない。常に、何かに対して悩んでいる。「悩みの無い人生というのはつまらない」という人がいる。その言葉の意味は、悩みを乗り越える事によって人は成長する、という事なのだろう。それは、その…

64回目「水いらず」(サルトル:新潮文庫)

本書を読んだからといって、サルトルの哲学について理解できるわけではない。小説はあくまで小説であり、それ以上でも以下でもない。 裏に書かれた粗筋とあとがきの解説によると、一応、収録されている5つの作品はどれも、サルトルの思想である実存主義に関…

61回目「存在の耐えられない軽さ」(ミラン・クンデラ:集英社文庫)

昔、加藤周一という人の論評を読んでとても感動した覚えがある。小説でも映画でもなく、評論を読んで感動したのは、この時が初めてであった。「知の巨人」と呼ばれた人で、世間的には左派系の論客とされているようだが、右とか左とかの分類がいかに無意味で…

58回目「ふらんす物語」(永井荷風:新潮文庫)

自分は結構、海外旅行が好きだ。沢木耕太郎とか金子光晴に憧れてインドを放浪していた時期もあった。といっても訪れたことのある国は全部で11か国とそれほど多くない。ガチでバックパッカーをやってる人には、遠く及ばない。そして、その11か国の中に、フラ…

57回目「闇の奥」(ジョゼフ・コンラッド:岩波文庫)

フランシス・フォード・コッポラの映画『地獄の黙示録』の原作。映画は完全版で3時間半くらいあり非常に長い。『地獄の黙示録』を観たのは15年ほど前だろうか。あまり覚えていないが、ジャングルの奥地へ主人公一行が船で進んでいくシーンの臨場感と、泥沼…

54回目「プールサイド小景・静物」(庄野潤三:新潮文庫)

今年は庄野潤三の生誕百年であり、よく行く書店では特集が組まれていた。書店の片隅に「庄野潤三生誕100年」と書かれたPOPが飾られてあり、そこに庄野潤三の幾つかの本が平積みされていた。別に大層なものではないが、興味を引いた。それで一番目立った置…

52回目「ダブリナーズ」(ジェイムズ・ジョイス 柳瀬尚紀訳:新潮文庫)

先日、祖母が亡くなった。通夜の前日、自分は祖母と一緒の部屋で寝た。葬儀会館に祖母を一人で残せないため、自分が祖母と一緒に留守番をしたのだ。祖母が眠っている横に布団を敷き、一夜を明かした。文字通り、死者に寄り添ったのだ。 祖母との思い出に浸り…

50回目「カンガルー・ノート」(安部公房:新潮文庫)

『カンガルー・ノート』を最初に読んだのは中学生の頃だ。途中から意味が分からなくなり、読了するのが苦痛だった記憶がある。その後、安部公房の小説は『砂の女』『他人の顔』『飢餓同盟』『箱男』『燃えつきた地図』などを読んだ。これらは、『カンガルー…

47回目「死の家の記録」(ドストエフスキー著 工藤精一郎訳:新潮文庫)

囚人の生活とか刑務所内の環境とかは、一般人にはなかなか触れる機会がない。時折、囚人に対する虐待や暴行、さらには、それによる囚人の死亡などのニュースを耳にすることがある。その度に、刑務所という場所に対して負のイメージを持ってしまう。ニュース…

40回目「叫び声」(大江健三郎:講談社文芸文庫)

ブログの更新が少し滞ってしまった。最近、精神的に疲弊しており、良い作品に触れてもブログを書く気力が起こらなかったのだ。自分は基本的に怠け者なので、ブログを書くことに向いていないのかもしれない。だから、テーマの硬軟にかかわらず、ほぼ毎日のよ…

38回目「コルタサル短編集 悪魔の涎・追い求める男」(フリオ・コルタサル:岩波文庫)

アルゼンチン出身の作家、フリオ・コルタサルの短編集だ。表題の2作を含め、全10作品が収録されている。ラテンアメリカの文学について、自分は殆ど知らない。ガルシア・マルケスの小説を過去に一作だけ読んだことがあるくらいだ。 何も知らないので、変な偏…

34回目「希望の国のエクソダス」(村上龍:文春文庫)

村上龍の長編。「希望の国のエクソダス」の書評。

22回目「高瀬舟」(森鴎外:集英社文庫)

『じいさんばあさん』『高瀬舟』『山椒大夫』『寒山拾得』『最後の一句』『堺事件』『阿部一族』の7つの短編が収録されている。そして『高瀬舟』と『寒山拾得』には森鴎外自身による解説が付いている。さらに巻末の解説(川村湊と林望)も読み応えがあり、…

20回目「仮面の告白」(三島由紀夫:新潮文庫)

三島由紀夫の「仮面の告白」は、高校生の頃に始めて読んだ。それ以降は読んでいないので、恐らく約20年ぶりの再読だ。内容は殆ど覚えていなかったが、「糞尿汲取人」という単語だけは鮮明に覚えていた。薄学な高校生にとって、三島由紀夫は難解であり読了…

17回目「機械・春は馬車に乗って」(横光利一 新潮文庫)

コロナの影響で仕事がめっきり暇になり、家にいることが多くなった。せっかくの機会なので普段以上に本を沢山読もうと意気込んでいるのだが、何故かあまり捗らない。平時は休日にカフェで読書をするのだが、今は普段行くカフェが臨時休業している。また、不…

16回目「メタモルフォシス」(羽田圭介:新潮文庫)

表題作の「メタモルフォシス」と「トーキョーの調教」の2作品が収録されている。 どちらも、マゾヒズムという特殊な性癖を有した男が主人公で、そっち方面の描写がかなりエグい。墓地での露出プレイなどは序の口で、おっさんに肛門を掘られたり、ウ●コを食…

14回目「異邦人」(アルベール・カミュ:新潮文庫)

コロナウイルスの影響で「ペスト」が売れているらしい。未知のウイルス《ペスト》に立ち向かう人々の話で、「異邦人」と並ぶカミュの代表作であり不条理文学の金字塔だ。出版不況とか、若者の活字離れとか言われて久しいが、読書の習慣がなかった人でも、割…

13回目「その街の今は」(柴崎友香:新潮文庫)

この小説は平成18年に書かれたらしい。つまり、今から12年ほど前に書かれた小説だ。舞台は現代の大阪で、現代人の女性が主人公だ。ここでいう「現代」とは、12年前のことをいう。要するに12年前の柴崎友香さんが、12年前の大阪を舞台に書いた小説…

12回目「塩狩峠」(三浦綾子:新潮文庫)

敬虔なクリスチャンの父母の元に産まれた青年が、様々な人との出会いと別れの中で成長し、自らも敬虔なクリスチャンになり、最後は列車の事故から自らの身を犠牲にして乗客の命を守り死ぬ、という物語。要するに、一人の人間の幼少期から死ぬまでの一生を描…

9回目「痴人の愛」(谷崎潤一郎:新潮文庫)

男は真面目で、知識・教養があり、年上で人生経験も豊富で、良い職に就き、安定した収入(かなりの高給)があり、自立している。基本的には常識人。女は不真面目で、年下で、カフェの給仕以外の社会経験がなく、勉強もできない(英語の発音はとても上手いけれど…

8回目「告白」(町田康:中央公論新社) 猫町倶楽部の読書会にて

猫町倶楽部という団体が主催している読書会に参加してきた。 課題本を読了した参加者たちが、グループに分かれて課題本の感想を言い合う。1グループがだいたい7,8人で、テーブルを囲って読んだ本について語り合う。ワンドリンクが付いていて、アルコールも飲…

7回目「コンビニ人間」(村田沙耶香:文春文庫)

現在進行形で活躍されている現代作家の小説は、ほとんど読まない。別に読まないと決めているわけではないが、あまり食指が動かない。現代作家の書く小説は、活字離れが著しい現代において、どこか「読みやすさ」「わかりやすさ」のみに重点が置かれているよ…

4回目「透明な迷宮」(平野敬一郎:新潮文庫)

巻末に平野敬一郎のメールアドレスが載っていって「小説の感想などもお待ちしています」なんて書いてあったから感想を送ろうかなと思う。6つの短編が収録されている。初めて読んだ作者で、なんとなく文体が三島由紀夫ぽいと感じて後でネットで調べたら、確…