松本雄貴のブログ

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107回目「最後の将軍~徳川慶喜~」(司馬遼太郎:文春文庫)

坂本龍馬とか新選組が好きな人はけっこういるが、「徳川慶喜が好き」という人には出会ったことがない。よく耳にする「好きな歴史上の人物は?」といった質問に徳川慶喜を一番目に挙げる人は稀な気がする。日本を近代化に導いた立役者の一人であることは間違いないのに、なぜこうも不人気なのだろう?(自分の周りだけかもしれませんが…)やはり、戊辰戦争で幕府のために戦っている仲間を裏切って自分だけ逃げた将軍のイメージが強いからだろうか。しかし、それには慶喜なりの理由があって、…というのは、本書『最後の将軍』を読めばよく分かる。だから、ここでは説明しない。弱腰とか口だけとか無責任とか敵前逃亡とか色々言われているが、実は自分は慶喜がけっこう好きなのだ。

自分の好きなタイプに「能力は高いけど、やる気がない人」というのがある。この「やる気がない」という部分が重要なのである。慶喜は、その典型である。「将軍なんてやりたくないけど、皆がやれって言うから仕方なくやることにした。正直、うざい。政治になんて興味ないし。写真とか釣りとかしてる方がずっといい」みたいな所がクールでよい。そして、自分が属する幕府という組織が時代にそぐわないことも誰よりも早く気付き、自ら大政を奉還するのも潔くて好きだ。といっても、幕府に対して情が全くないわけでもなく、慶喜なりの愛情があり感傷にふける場面もなかなか人間臭くて面白い。人間臭さでいうと、長州より薩摩を晩年に至るまで憎んでいたところなんかも、また一周回って魅力的である。

逆に、西郷隆盛とか大久保利通などは、自分の好みからは外れる。熱血漢的な感じが暑苦しい。傲慢さを感じる。自信に漲っている感じが嫌なのだ。ただ、世間はこういうタイプの方が受け入れやすいのだろう。カリスマ性のある指導者というイメージが容易に定着するからだ。あくまで勝手なイメージだが、職場にいて欲しくないタイプの人間である。

というわけで、自分は慶喜が好きなのだ。余談だが、自分は政治家が全員嫌いだ。与党も野党も国会議員も地方議員も全員嫌いなのだ。ただ、唯一例外があって、元内閣総理大臣細川護熙さんは好きなのだ。

政界引退後は、陶芸なんかやって余生を楽しんでる所が、なんとなく慶喜に似ている気がして、渋い。