松本雄貴のブログ

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74回目「サイドウェイ」(アレクサンダー・ペイン監督

たまに観たくなる映画の一つ。

マイルスとジャック。2人の中年男の珍道中を描いたロードムービー。マイルスは小説家志望だが、まだ夢は叶わず教師として生計を立てている。ワインに造詣が深い。恋愛は奥手で不器用。繊細な性格。

ジャックはテレビ俳優でプレイボーイ。浮気性。ジャックの独身最後の記念として、2人で気ままなドライブをすることに。その道中、マイルスはマヤという女性と出会い恋に発展する。

男の友情と男女の恋愛が描かれるが、平板な展開でストーリーに起伏はない。一週間という明確な時間が設定してあり、それぞれの章は「月曜日」「火曜日」という具合に曜日で区切られる。この演出が、これといった事件が起こるわけではないのに、ちょっとした余韻を残してくれる。夜中、不器用なマイルスがやっとマヤと結ばれる。2人が家の扉の前でキスをし、2人はそのまま家の中へ。カメラは2人を追わず、外の方向にパンしたまましばらく固定。やがて夜から朝になり、マヤが一人外に出て微笑みながらコーヒーを飲む。そのシーンで「木曜日」のテロップが入る。自分的にはここが『サイドウェイ』のクライマックスで一番好きなシーン。その後も映画は二転三転あるのだが、オマケみたいなもの。敢えて結末をはっきりさせないラストも好き。男2人のドタバタでコメディ色が強いが、甘いだけではないビターな大人の恋愛映画だ。

自分は正直、恋愛映画が苦手だ。他人の恋愛模様を見せられても鼻白むことが殆どだ。『バッファロー66』のような少し特殊な恋愛映画や、どこか壊れた人間が描かれる恋愛、或いは見た目がエログロでも実は途轍もなくプラトニックを描いた恋愛映画などは見ていられる。しかし、美男美女を主役にしたオーソドックスな恋愛は、恥ずかしくて見ていられない。『サイドウェイ』は、そういう意味ではオーソドックスな恋愛を描いている。だけど、何故か自分の琴線に触れるから不思議だ。

マイルスとジャックの友情も、2人の性格の違いが軸になっている。性格が真逆な者同士はウマが合う、というとてもベタな設定だが面白い。ベタ故に面白いのかもしれない。男2人の関係はニール・サイモンの『おかしな二人』に似ている。

実際問題、性格が真逆な人っているのだろうか。人の性格って、明確に分けられるほど、はっきりしているわけではないと思う。自分だって、或る友人からは「単純で分かりやすい」と言われる。でも別の友人からは「気難しくて何を考えているか分からない」と言われる。がさつな人にだって繊細な部分は絶対あるし、そもそも、人間関係なんて演技の連続ではないだろうか。人は如何に他人に本当の自分を見せないか、という事に腐心している生物ではないだろうか。

そういう意味で、『サイドウェイ』も『おかしな二人』も実は平板な人物しか描いていないのではないだろうか、という不満を持っているけれど、どちらも面白いと思ってしまう自分は、やはり友人が言うように「単純で分かりやすい」人間なのだろうか。まあ、どうでもいい。映画でも演劇でも小説でも面白ければ、それでいいのだ。それ以上考える事は野暮なのだ。おぼん師匠とこぼん師匠は似ていると思う。