松本雄貴のブログ

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2回目「マジカルガール」(カルロス・ベルムト監督)

脚本も演技も演出も全て素晴らしいけれど、好きになれない映画というものも存在する。「マジカル・ガール」そんな映画だ。

白血病で余命1年も無い娘のために、娘の好きなアニメの衣装を買ってあげようとするが、高価すぎて手が出ない無職の男。このおっさんが、金を手に入れる為に深夜にブティックのショーウインドーを石で割って強盗しようとしたその時、おっさんの真上から吐しゃ物が落ちてくる。ゲロを吐いたのは、精神を病んでいるバルバラという既婚の女性。女はおっさんの服を自身のゲロで汚してしまったので、おっさんの服を洗濯するため部屋に招く。そして、一夜を共にする(ここの展開が少し唐突だと思った)

これが、最初で最後の直接的な出会い。おっさんは、バルバラと寝たことを夫にばらすと脅迫し、バルバラに金を要求する。その金で娘の好きなアニメの衣装を買ってやるわけだが、そこからどのような結末になるかは実際に観て頂きたい(誰にだ?)

プロットが良くできているので見入ってしまうのだが、冒頭に書いた通り、この映画は好きになれない。

登場人物が皆、自己中心的に過ぎるから感情移入できない。おっさんは最愛の娘が不治の病におかされているという、同情できる点もあるのだが、それでも二度も大金をバルバラに強請るのは如何なものか。あと、単純に娘が欲しがっている衣装が高価すぎる。日本円で90万もするのだ。さらに衣装だけでなく付属品のスティックが衣装以上に高価なもので、そんな高価なものを娘に与えてやろうとするのは、常識的な観点からも理解しがたい。普通はもうすこし安価な類似品で誤魔化すなり、諦めるなりするだろう。でもこのおっさんは、娘に衣装を買い与える事のみに拘泥して強盗をしようとしたり、バルバラを強請ったりする。行動が安直に過ぎる。

バルバラバルバラで、大金を用意するために特殊な風俗で働き、ものすごく酷い目にあうのだが、可哀想だけれども、これも自業自得だろう。夫に相談するか、警察に通報すれば、あんな悲劇は免れ得たはずだ。

さらに、酷い目にあわされたバルバラの復讐をしてやる初老の男(バルバラの小学生時代の先生)がいるのだが、この男が最後に取る行動も、決して賛同できないし、怒りすら覚えた。詳しくは、実際に観て頂きたいのだが、俺が最もダメだろうと思ったシーンを紹介させて頂くと、ラストちかくのカフェのシーンだ。

結論からいうと、このバルバラの復讐を果たそうとする初老の男は、とあるカフェでおっさんと対面し、おっさんの言い分を聞いた後、ピストルでおっさんを射殺する。ここのシーンは、なかなかショッキングだ。そして見応えがある。初老の男がおっさんを射殺する事に関しては、おっさんも自業自得だし致し方ないことだ。二人の会話のやりとりから、初老の男がおっさんを撃つのは自然であり必然である。このシーンに対して俺は怒っているわけではない。問題は、その次だ。おっさんを射殺した初老の男は、その後、カフェの店員2人も同時に射殺する。ここに俺は怒りを禁じえない。

なぜ、なんの関係もない、普通に仕事をしていただけのカフェ店員を殺す必要があったのか。主要登場人物には重要なドラマが用意されているのに対して、カフェ店員たる脇役の命があまりに軽んじられていやしないか。彼らにだって愛すべき家族や恋人がいるかもしれないし、主要登場人物3人よりも深刻な悩みを抱えていたかもしれないじゃないか。そんな事を想像してしまって、なかなか嫌な気分になってしまった。登場人物に対する公平な愛情というものが、監督にない気がしたのだ。まぁ、所詮映画だし、そんなことは映画の本筋にはあまり関係がないから、別にいいのだけれど。

というわけで、とても見ごたえのある、才気に溢れた映画だが、俺は好きになれない。以上